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売上が伸びてくると気になり始めるのが「法人化(法人成り)」のタイミングです。ここでは、よく目安として使われる税率の切り替わりポイントと、フリーランスエンジニアが見落としがちなインボイス制度との関係を整理します。
※本記事は一般的な情報提供を目的としたものです。個別の法人化の判断は税理士にご相談ください。
「所得800万円」がよく目安とされる理由
法人化の目安として800万円という数字がよく挙がるのは、法人税率がこの金額を境に切り替わるからです。国税庁の税率表では、資本金1億円以下の普通法人について、年800万円以下の部分に15%、年800万円超の部分に23.20%と定められています。ここでいう800万円は法人の各事業年度の所得の金額で、個人事業主の課税所得(所得税の計算で所得控除を引いた後の金額)とは別のものです。
ただし、この15%には2026年時点で条件が付いています。
(注7) 令和7年4月1日以後に開始する事業年度において、所得金額が年10億円を超える事業年度については、年800万円以下の部分に適用される税率は17パーセントとなります。
独立して間もないエンジニアの法人で所得10億円を超えることはまずないので、実務上は15%で考えて差し支えありません。ただし、この15%は法人税法の本則ではなく租税特別措置法による時限措置です。
次の表の第一欄に掲げる法人又は人格のない社団等(中略)の平成二十四年四月一日から令和九年三月三十一日までの間に開始する各事業年度の所得に係る同法その他法人税に関する法令の規定の適用については、(中略)同表の第三欄に掲げる税率は、同表の第四欄に掲げる税率とする。
本則(法人税法66条2項)の税率は19%で、15%(所得10億円超の事業年度は17%)が使えるのは令和9年3月31日までに開始する事業年度までです。「中小法人の軽減税率は無条件に15%」ではないという点は、古い解説記事との違いとして知っておくとよいところです。
なお、よく見かける「法人の実効税率は約22%から33%へ上がる」といった数字は、法人税に法人住民税・法人事業税を合わせたものです。これらは自治体や法人の規模によって変わるため、国税庁が一律の値として示しているわけではありません。800万円は法人税率が切り替わる地点であって、超えたら必ず法人が有利になるという基準ではありません。実際の有利・不利は、所得控除の状況や事業の経費構造によって変わります。
見落としがちな論点:インボイス制度と消費税免税
法人化のメリットとしてよく紹介されるのが「設立から最長2年間は消費税が免税になる」という話です。制度としては実在します。
したがって、新たに開業した個人事業者または新たに設立された法人のように、その課税期間について基準期間における課税売上高がないときまたは基準期間がないときは、原則として納税義務が免除されますが、例えば、次の「納税義務が免除されない場合」のようなときには免除されませんのでご注意ください。
ここで大事なのは、法人が個人事業とは別の事業者として扱われる点です。個人時代の売上がいくらであっても、新しく作った法人には基準期間がないため、出発点は免税事業者になります。
ところが、同じページにこう続きます。
また、適格請求書発行事業者は、基準期間における課税売上高にかかわらず、納税義務は免除されません。
つまり、設立した法人がインボイス発行事業者として登録を受けた時点で、免税のメリットは消えます。個人事業主として登録済みでも、その登録が法人に引き継がれるわけではありません。法人として改めて登録するかどうかを選ぶことになります。
そしてここに、BtoB中心という働き方が効いてきます。クライアントは仕入税額控除のためにインボイスを必要とするので、取引先から登録を求められることが多い。制度上は「登録しない=免税のまま」という選択肢がありますが、実際には選びにくいのが実態です。「2年間免税だから」を法人化の主な理由に置くのは危ういと考えたほうがよいでしょう。
資本金にも条件があります。
その事業年度の基準期間がない法人のうち、その事業年度開始の日における資本金の額または出資の金額が1,000万円以上であるとき(注1)
資本金1,000万円以上で設立すると、登録の有無にかかわらず、その時点で免税の対象から外れます。
社会保険は「入るかどうか」を選べない
税率の比較で見落とされがちなのが社会保険です。法人化すると、健康保険と厚生年金への加入が任意ではなくなります。日本年金機構は、強制適用事業所になる法人をこう説明しています。
厚生年金保険の適用事業所となるのは、株式会社などの法人の事業所(事業主のみの場合を含む)です。
括弧の中が重要です。従業員が誰もいない一人法人でも、強制適用事業所になります。個人事業主のときは国民健康保険と国民年金でしたが、法人化後は会社負担分と本人負担分の両方を、実質的に自分で払うことになります。税率だけを比べて法人化を決めると、この固定費で見込みが崩れます。
個人事業のままであれば、従業員が常時5人以上いる場合など(一定の業種を除く)を除いて、強制適用にはなりません。
ここまでを踏まえて法人化すると決めた場合、設立の手続き自体は自分で進められます。会社設立に必要な書類を無料で作成できるサービスがあり、電子定款にも対応しています。
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まとめ
- 法人の所得800万円は法人税率が15%と23.20%で切り替わる地点。実効税率は自治体や規模で変わるため、この数字だけでは判断できない
- 15%(所得10億円超の事業年度は17%)は租税特別措置法42条の3の2による時限措置で、令和9年3月31日までに開始する事業年度まで。本則は19%
- 新設法人は原則免税だが、インボイス発行事業者として登録した時点で免税ではなくなる。個人時代の登録は法人に引き継がれない
- 資本金1,000万円以上で設立すると、その時点で免税の対象外
- 一人法人でも社会保険は強制適用。税率以外の固定費として見込んでおく
この記事で参照した一次情報
- 国税庁 No.5759 法人税の税率(資本金1億円以下の普通法人の税率が年800万円以下15%・800万円超23.20%であること、所得10億円超の事業年度では17%になることを確認)
- 租税特別措置法(昭和32年法律第26号)(第42条の3の2第1項の軽減税率15%・17%が令和9年3月31日までに開始する事業年度の時限措置であること、本則が法人税法第66条第2項の19%であることを確認)
- 国税庁 No.6531 新規開業又は法人の新規設立のとき(新設法人が原則として納税義務を免除されること、適格請求書発行事業者は課税売上高にかかわらず免除されないこと、資本金1,000万円以上では免除されないことを確認)
- 国税庁 No.6501 納税義務の免除(基準期間の課税売上高が1,000万円以下でも、適格請求書発行事業者の登録を受けている場合は納税義務が免除されないことを確認)
- 日本年金機構 適用事業所と被保険者(法人の事業所は事業主のみの場合を含めて強制適用となること、個人事業所は常時5人以上が条件であることを確認)
本記事は2026年9月時点で上記の一次情報を確認して書いています。参照した国税庁のページは令和7年4月1日現在の法令等にもとづくものです。税率や制度は改正されることがあるため、法人化の最終判断は税理士にご相談ください。
その税理士への相談は、会社設立を専門とする税理士法人が無料で受け付けています。
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