本記事はアフィリエイト広告を含みます。
フリーランスエンジニアにとって、「今の案件が終わったら次はどうなるか」という不安は常について回ります。ここでは、いざという時のための生活防衛資金の考え方を、法律の条文まで下りて確認します。
※本記事は一般的な情報提供を目的としたものです。個別の資金計画はファイナンシャルプランナー等の専門家にご相談ください。
会社員より多めに必要とされる理由
一般的に、生活防衛資金の目安は生活費の3〜6ヶ月分とされています。フリーランス・個人事業主の場合は「生活費の6ヶ月〜1年分」を挙げる解説が多いのですが、この数字自体に公的な裏付けがあるわけではありません。大事なのは金額そのものより、なぜ会社員より多めに必要なのかという中身です。理由は主に次の3つです。
- 雇用保険に加入していないため、案件が途切れても失業給付を受け取れない
- 病気やケガで働けなくなったときの傷病手当金が、会社員とは扱いが違う
- フリーランスは会社員よりも収入の変動が大きい
2つ目の傷病手当金は「フリーランスにはない」と説明されることが多いのですが、正確には少し違います。条文を見ると、その理由がはっきりします。
「傷病手当金がない」の正体は、条文の書き分けにある
まず、会社員が加入する健康保険では、傷病手当金の支給が法律で定められています。
被保険者(任意継続被保険者を除く。第百二条第一項において同じ。)が療養のため労務に服することができないときは、その労務に服することができなくなった日から起算して三日を経過した日から労務に服することができない期間、傷病手当金を支給する。
「療養のため労務に服することができないとき」とあるとおり、仕事とは関係のない病気やケガが対象です。支給額は同条第2項で、標準報酬月額をもとにした日額のおよそ3分の2と定められています。
一方、フリーランスが加入する国民健康保険では、同じ給付が別の書かれ方をしています。国民健康保険法第58条は、第1項と第2項で表現が分かれています。
市町村及び組合は、被保険者の出産及び死亡に関しては、条例又は規約の定めるところにより、出産育児一時金の支給又は葬祭費の支給若しくは葬祭の給付を行うものとする。ただし、特別の理由があるときは、その全部又は一部を行わないことができる。
市町村及び組合は、前項の保険給付のほか、条例又は規約の定めるところにより、傷病手当金の支給その他の保険給付を行うことができる。
「行うものとする」と「行うことができる」の違いです。出産育児一時金や葬祭費は原則として実施する給付、傷病手当金は条例で定めれば実施できる任意の給付、という構造になっています。
つまり、制度として存在しないのではなく、実施するかどうかが各自治体に委ねられていて、実際に定めているところはほとんどない、というのが正確な説明です。お住まいの自治体が実施しているかは国保の窓口で確認できますが、資金計画としては「ない」前提で組んでおくほうが安全です。
2024年11月から、労災保険には入れるようになった
働けなくなったときの備えとして、2024年に選択肢がひとつ増えています。
令和6年11月1日から「フリーランス」が労災保険の「特別加入」の対象となりました
それまで一部の業種に限られていた特別加入が、業種・職種を問わず可能になりました。エンジニアも対象です。仕事中や通勤中のケガや病気に対して、補償を受けられます。
ただし、これで生活防衛資金が不要になるわけではありません。労災保険が何を対象にしているかは、法律の第1条に書かれています。
労働者災害補償保険は、業務上の事由、事業主が同一人でない二以上の事業に使用される労働者(以下「複数事業労働者」という。)の二以上の事業の業務を要因とする事由又は通勤による労働者の負傷、疾病、障害、死亡等に対して迅速かつ公正な保護をするため、必要な保険給付を行い、(以下略)
対象は「業務上の事由」または「通勤による」ものです。休日に倒れた、持病が悪化した、といった仕事と関係のない病気やケガは、労災の対象になりません。
ここで先ほどの話とつながります。会社員なら、業務外の病気は健康保険の傷病手当金が埋めてくれます。フリーランスは、労災の特別加入に入っても業務外は対象外で、国保の傷病手当金も実施されていない。結局、業務外の理由で働けない期間は、自分の貯えで持ちこたえるしかありません。これが生活防衛資金を厚めに持つ理由です。
小規模企業共済との違い・使い分け
以前の記事で、収入の波に備える制度として「小規模企業共済」を紹介しました。掛金が全額所得控除になる節税効果の高い制度ですが、掛金納付月数が240か月(20年)未満で任意解約すると掛金合計額を下回ります。収入変動への備え方についてはこちらの記事もあわせてご覧ください。
これに対して生活防衛資金は、「必要なときにすぐ引き出せる」流動性が最優先です。性質がまったく違うお金なので、混ぜてはいけません。節税目的の積み立てと、緊急時にすぐ使えるお金は、別々に持っておくのが基本です。共済に入れすぎて手元が薄くなると、いざというときに元本割れ覚悟で解約する羽目になります。
それでも足りないとき:請求書を先に現金化する方法
案件は動いているのに、入金が翌月末で手元が持たない。フリーランスの資金繰りが詰まるのは、赤字よりもこのタイミングのズレが原因であることが少なくありません。
この場合の選択肢のひとつが、売掛債権を買い取ってもらうファクタリングです。金融庁は次のように説明しています。
一般に「ファクタリング」とは、事業者が保有している売掛債権等を期日前に一定の手数料を徴収して買い取るサービス(事業者の資金調達の一手段)であり、法的には債権の売買(債権譲渡)契約です。
借入ではなく債権の売買なので、信用情報に借入として記録されるものではありません。ただし手数料が差し引かれるため、受け取れる額は請求額より少なくなります。
そして、この分野には注意も必要です。金融庁は同じページで警告しています。
しかし、近時、ファクタリングを装った高金利の貸付けを行うヤミ金融業者の存在が確認されています。また、ファクタリングとして行われる取引であっても、経済的に貸付けと同様の機能を有していると思われるようなものは、貸金業に該当するおそれがあります。
金融庁は具体例として、譲渡した債権の回収が売主に委託されていて「売主が債権を買い戻すこととされている」ケースを挙げています。契約前に、買い戻しの義務がないか、手数料が総額でいくらになるかを必ず確認してください。
フリーランス・個人事業主向けに請求書買取を行っているサービスとしては、次のようなものがあります。
とはいえ、手数料を払って先に受け取るのは一時しのぎです。生活防衛資金が積んであれば、そもそもこの選択をせずに済みます。順番としては、まず貯める。使うのは、貯えが尽きそうで、かつ入金予定が確実にあるときだけです。
まとめ
- 「生活費の6ヶ月〜1年分」という目安に公的な裏付けはない。金額より、なぜ多めに要るのかを理解しておく
- 健康保険の傷病手当金は法律で「支給する」と定められている。国民健康保険は「行うことができる」という任意給付で、実施している自治体はほとんどない
- 2024年11月から、フリーランスも業種・職種を問わず労災保険に特別加入できる
- ただし労災の対象は業務上または通勤によるもの。業務外の病気やケガは対象外なので、そこは自分の貯えで埋めるしかない
- 小規模企業共済は流動性が低い。すぐ引き出せるお金は別に確保しておく
- 請求書の買取は借入ではなく債権の売買。ただし買い戻し条項や手数料総額を必ず確認する
この記事で参照した一次情報
- 健康保険法(大正十一年法律第七十号)(第99条第1項で、療養のため労務に服することができないときに傷病手当金を支給すると定められていることを確認)
- 国民健康保険法(昭和三十三年法律第百九十二号)(第58条第1項が「行うものとする」、第2項の傷病手当金が「行うことができる」と書き分けられていることを確認)
- 労働者災害補償保険法(昭和二十二年法律第五十号)(第1条で、対象が業務上の事由または通勤によるものに限られることを確認)
- 厚生労働省 令和6年11月1日から「フリーランス」が労災保険の「特別加入」の対象となりました(業種・職種を問わず特別加入できるようになったことを確認)
- 金融庁 ファクタリングの利用に関する注意喚起(ファクタリングが債権の売買契約であること、ヤミ金融業者の存在、買い戻し条項がある場合は貸金業に該当するおそれがあることを確認)
本記事は2026年8月時点で上記の一次情報を確認して書いています。法令や制度は改正されることがあるため、最新の情報は各公式サイトでご確認ください。具体的な資金計画は、ご自身の支出状況を踏まえてファイナンシャルプランナー等にご相談ください。

