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開業届は開業から1か月以内に出すもの、と覚えていました。検索して出てくる記事もほとんどがそう書いています。
ところが提出前に条文を読んだところ、所得税法229条にそういう書き方はありませんでした。国税庁の案内も同じでした。
そして、本当に期限が短いのは開業届ではなく、青色申告の承認申請のほうでした。開業届を急いで出しても、それだけでは青色申告になりません。
※本記事は一般的な情報提供を目的としたものです。個別の税務判断は必ず税理士または所轄の税務署にご確認ください。
先に結論
- 開業届の期限は「開業した年の確定申告期限まで」です(2026年1月1日以後の開業分。令和5年改正・令和8年1月1日施行)。現在の条文にも国税庁の案内にも「1か月以内」とは書かれていません
- 一方、青色申告の承認申請は「その年の3月15日まで、または開業から2か月以内」です。こちらは変わっていません
- 開業届と青色申告承認申請は別の書類です。開業届だけ出しても青色申告にはなりません
条文にはこう書かれている
居住者又は非居住者は、国内において新たに不動産所得、事業所得又は山林所得を生ずべき事業を開始し、(中略)た場合には、財務省令で定めるところにより、その旨その他必要な事項を記載した届出書を、その事実があつた日の属する年分の所得税に係る確定申告期限までに、税務署長に提出しなければならない。
出典:所得税法 第229条
国税庁の手続案内も同じです。
[提出時期]事業の開始等の事実があった日の属する年分の確定申告期限までに提出してください。なお、提出期限が土・日曜日・祝日等に当たる場合は、これらの日の翌日が期限となります。
2026年8月に開業したなら、期限は2027年3月15日ということになります。1か月ではありません。
同じ条文群の中で書き分けられている
「1か月以内」という期限が所得税法に存在しないわけではありません。すぐ次の条文にあります。
国内において給与等の支払事務を取り扱う事務所(中略)を設け、又はこれらを移転し、若しくは廃止した者は、財務省令で定めるところにより、その旨その他必要な事項を記載した届出書を、その事実があつた日から一月以内に、税務署長に提出しなければならない。
出典:所得税法 第230条
230条は給与を支払う事務所を設けたときの届出で、こちらは「一月以内」と明記されています。229条と230条で書き分けられている以上、229条に1か月の期限がないことは条文の作りからも読めます。
なお、229条が「確定申告期限まで」になったのは、令和5年の改正(所得税法等の一部を改正する法律、令和5年法律第3号)によるもので、令和8年1月1日に施行されました。改正前の229条は「その事実があつた日から一月以内に」と定めていたので、「1か月以内」と書いている記事は、2025年12月31日以前の開業について書かれた時点では正しかったことになります。2025年中に開業してまだ出していない場合は、旧法の1か月の期限がすでに過ぎている扱いです(附則第10条)。2026年1月1日以後に開業した人が、この記事の「確定申告期限まで」に当たります。
急ぐべきなのは青色申告の承認申請
期限が短いのはこちらです。
その年分以後の各年分の所得税につき前条の承認を受けようとする居住者は、その年三月十五日まで(その年一月十六日以後新たに同条に規定する業務を開始した場合には、その業務を開始した日から二月以内)に、(中略)申請書を納税地の所轄税務署長に提出しなければならない。
出典:所得税法 第144条
| 開業届(229条) | 青色申告承認申請(144条) | |
|---|---|---|
| 期限 | 開業した年の確定申告期限まで | 3月15日まで、または開業から2か月以内 |
| 2026年8月に開業した場合 | 2027年3月15日 | 2026年10月中 |
| 遅れると | 条文に罰則の定めはない | その年は青色申告にできない |
差は5か月あります。8月開業なら、青色申告の申請は10月中に出す必要があり、開業届のほうは翌年3月まで猶予があります。急ぐ順番が逆になっている記事を読んでいると、間に合わない側を後回しにすることになります。
1月16日という区切り
条文の括弧書きは「その年一月十六日以後新たに業務を開始した場合」です。1月15日までに開業した場合は、括弧書きに当たらず原則どおり3月15日が期限になります。
| 開業日 | 青色申告承認申請の期限 |
|---|---|
| 2026年1月10日 | 2026年3月16日(原則は3月15日だが、2026年は日曜のため翌日) |
| 2026年1月20日 | 2026年3月23日(開業から2か月の3月20日が春分の日、21日・22日も休日のため) |
| 2026年8月19日 | 2026年10月19日(開業から2か月) |
| 2026年12月1日 | 2027年2月1日(開業から2か月) |
期間の計算は初日を算入せず、応当日の前日に満了します(民法第140条・第143条第2項)。12月1日開業なら12月2日から数えるため、期限は翌年2月1日です。
年末に開業した場合、2か月以内の期限が翌年に入ります。それでもその年分から青色申告の対象になります。
開業届を出しても青色申告にはならない
この2つは別の書類です。開業届(229条)は事業を始めたことを知らせる届出、青色申告承認申請(144条)は承認を受けるための申請で、条文も章も別に置かれています。
両方を同時に出すことはできますし、実務ではそうすることが多いはずです。ただし開業届だけを出して安心していると、青色申告特別控除も、赤字を翌年以後に繰り越す純損失の繰越控除も、原則として使えないまま1年が過ぎます。
なお、事業の赤字を給与所得などと相殺する損益通算(所得税法69条1項)は、青色申告でなくても使えます。青色申告書を出している年に限られるのは、相殺しきれなかった赤字を翌年以後3年間に繰り越す純損失の繰越控除(同法70条1項)のほうです。
確定申告書を提出する居住者のその年の前年以前三年内の各年(その年分の所得税につき青色申告書を提出している年に限る。)において生じた純損失の金額(中略)がある場合には、当該純損失の金額に相当する金額は、政令で定めるところにより、当該確定申告書に係る年分の総所得金額、退職所得金額又は山林所得金額の計算上控除する。
出典:所得税法 第70条第1項
前に別の記事で扱ったとおり、青色申告ができるのは不動産所得・事業所得・山林所得を生ずべき業務を行う人に限られます(143条)。承認申請を出していなければ、そもそもこの入口に立てません。
期限に間に合わせるために何をするか
開業のタイミングで出す書類は、実際には開業届と青色申告承認申請だけではありません。給与を支払うなら230条の届出が要りますし、消費税や源泉所得税の届出が関わる場合もあります。
それぞれ期限が違うため、まとめて把握しておかないと取りこぼします。国税庁のページには届出書ごとの提出期限が一覧で載っているので、開業時に一度目を通しておく価値があります。
書類の作成そのものは、会計ソフトの開業支援機能で作れます。開業届と青色申告承認申請を同時に生成できるため、片方だけ出すという取りこぼしが起きにくくなります。そのまま帳簿づけに移れる点も、後から会計ソフトを選び直す手間を省くことになります。
まとめ
- 開業届の期限は「開業した年の確定申告期限まで」(所得税法229条)。条文にも国税庁の案内にも「1か月以内」という記載はありません
- 「一月以内」と定めているのは230条(給与支払事務所の開設等の届出)で、別の届出です
- 青色申告の承認申請は3月15日まで、または開業から2か月以内(144条)。1月16日以後に開業した場合が2か月です
- 2026年8月に開業した場合、青色申告の申請は10月中、開業届は翌年3月15日まで。急ぐ順番は逆です
- 開業届と青色申告承認申請は別の書類です。開業届だけでは青色申告になりません
- 229条の「確定申告期限まで」は令和5年改正(令和5年法律第3号)で令和8年1月1日施行。2025年12月31日以前の開業は改正前の「1か月以内」のまま
あわせてどうぞ
青色申告特別控除65万円の要件はクラウド会計ソフト比較の記事に、青色申告ができる所得の種類と雑所得との違いは事業所得と雑所得の記事にまとめています。
この記事で参照した一次情報
- 所得税法(昭和40年法律第33号)(第229条の開業等の届出の提出期限、第230条の給与等の支払をする事務所の開設等の届出の1月以内、第144条の青色申告の承認の申請の期限、第69条第1項の損益通算に青色申告の要件がないこと、第70条第1項の純損失の繰越控除が青色申告書を提出している年に限られること、附則(令和5年法律第3号)第1条第6号・第10条の第229条改正の施行日と経過措置を確認)
- 国税通則法(昭和37年法律第66号)(第10条第2項の期限が休日に当たる場合の翌日への繰延べを確認)
- 国税庁 A1-5 個人事業の開業届出・廃業届出等手続(提出時期が「確定申告期限まで」であることを確認)
- 国税庁 No.2090 新たに事業を始めたときの届出など(開業届と青色申告承認申請の提出期限が別に定められていることを確認)
- 民法(明治29年法律第89号)(第140条の初日不算入、第143条第2項の応当日の前日に満了する原則を確認)
本記事は2026年9月時点で上記の一次情報を確認して書いています。提出期限が土日祝日に当たる場合はその翌日が期限になります。個別の手続きや期限の判定は、所轄の税務署または税理士にご確認ください。

