フリーランスエンジニアの経費率は何%が目安?【結論:公的な基準はありません】

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確定申告の時期になると「経費率 何%」「エンジニア 経費 割合」といった検索が増えます。背景にあるのは、たいてい「経費を入れすぎると税務署に目をつけられるのでは」という不安です。

先に結論を書きます。経費率の目安を定めた公的な基準は存在しません。法律が求めているのは、まったく別のことです。

※本記事は一般的な情報提供を目的としたものです。個別の税務判断は税理士または所轄の税務署にご確認ください。

所得税法が定めているのは「率」ではない

必要経費については、所得税法第37条第1項に定めがあります。長い条文ですが、経費の範囲を決めている中心的な規定です。

その年分の不動産所得の金額、事業所得の金額又は雑所得の金額(中略)の計算上必要経費に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、これらの所得の総収入金額に係る売上原価その他当該総収入金額を得るため直接に要した費用の額及びその年における販売費、一般管理費その他これらの所得を生ずべき業務について生じた費用(償却費以外の費用でその年において債務の確定しないものを除く。)の額とする。

出典:所得税法(昭和四十年法律第三十三号)第37条第1項

読んでいただくと分かるとおり、この条文に「率」「割合」「◯%まで」といった表現は一切出てきません。書かれているのは次の2つだけです。

  • その収入を得るために直接要した費用
  • その業務について生じた費用

つまり判定は1件ずつの支出について、業務のために生じたかどうかで行われます。全体を合計した割合が何%になるかは、法律上の要件ではありません。

では「3割が目安」のような数字はどこから来たのか

ネット上では「経費率は3割が目安」「5割を超えると危ない」といった数字をよく見かけます。今回、これらの数字の出どころを国税庁の公表資料で探しましたが、見つけられませんでした。

国税庁は業種別の経費率の目安を公表していません。仮にどこかの記事に数字が書かれていても、それは執筆者の経験則か、統計を独自に加工したものと考えるのが自然です。根拠として示されていない数字を、自分の申告の基準にするのは危ういやり方です。

そもそもエンジニアは経費率が低くなりやすい

業種によって費用の構造はまったく違います。ここを無視して率だけ比べても意味がありません。

  • 小売業:商品を仕入れて売るので、売上原価が大きい。経費率は高くなる
  • 飲食業:食材の原価と店舗の家賃がかかる。経費率は高くなる
  • 受託開発のエンジニア仕入れがない。売っているのは自分の作業時間なので、売上原価に当たるものがほとんど発生しない

フリーランスエンジニアの経費は、おおむね次のような構成になります。

  • 通信費(回線・携帯)
  • PC・モニター・周辺機器
  • サーバー代・ドメイン代・クラウドサービス利用料
  • 技術書・学習サービス
  • 家賃・光熱費の家事按分
  • 打ち合わせの交通費

これらを積み上げても、売上に対する割合は小売や飲食ほど大きくなりません。他業種の「目安」を持ち込むと、必ず低く見えます。低く見えたからといって経費が足りないわけではありませんし、逆に高い年があっても、それだけで問題があるわけでもありません。

エンジニアで経費率が跳ね上がるケース

ただし、次のような年は率が大きく動きます。どれも実態があれば問題ありません。

  • 外注した年:案件の一部を他のエンジニアに再委託すると、外注費がそのまま乗ります
  • 機材を更新した年:開発機を買い替えると、一時的に経費が膨らみます(30万円未満なら少額減価償却資産の特例の対象。2026年4月からは40万円未満に変わりました)
  • 常駐先が遠い年:交通費が積み上がります
  • 売上が落ちた年:固定費は変わらないので、分母が小さくなって率だけ上がります

最後のケースは特に誤解されやすいところです。経費が増えたのではなく、売上が減っただけでも経費率は上がります。率という数字は、それ単体では何も語りません。

税務調査は「率が高いから」来るのか

気になるのはここだと思います。国税庁は調査対象の選定基準を公表していません。したがって「経費率が◯%を超えると調査が来る」と断言している情報は、公的な裏付けを持たないことになります。

公表されているのは、調査そのものの定義です。

実地調査(特別調査・一般調査)とは、高額・悪質な不正計算が見込まれる事案を対象に深度ある調査を行うもので、特に、特別調査は、多額な脱漏が見込まれる個人を対象に、相当の日数(1件当たり10日以上を目安)を確保して実施しているものです。

出典:国税庁 金沢国税局 令和6事務年度 所得税及び消費税調査等の状況

もうひとつ、着眼調査についてもこう説明されています。

実地調査(着眼調査)とは、資料情報や申告内容の分析の結果、申告漏れ等が見込まれる個人を対象に実地に臨場して短期間で行う調査です。

出典:国税庁 金沢国税局 令和6事務年度 所得税及び消費税調査等の状況

書かれているのは「不正計算」「申告漏れ」であって、経費率という言葉は出てきません。率そのものが基準だとする公的な記述は、今回は確認できませんでした。

とはいえ「申告内容の分析」という表現があるとおり、内容は見られています。問題になるのは率の高さではなく、その中身に説明がつくかどうかです。

率を気にするより、説明できる状態にしておく

結局のところ、やるべきことは率の調整ではありません。1件ずつが「業務について生じた費用」だと説明できる状態を作ることです。具体的には次の3つです。

1. 家事按分の根拠を決めておく

自宅で作業するなら、家賃・光熱費・通信費の按分が発生します。面積比なのか使用時間比なのか、その計算根拠を自分で説明できるようにしておきます。なお「白色申告は50%を超えないと経費にできない」という説明が広く出回っていますが、通達の原文にはただし書きが続いています

2. 記録を残す

領収書とレシートを残すのは当然として、「何のための支出か」が後から分かる形にしておくと、説明がぐっと楽になります。技術書なら書名、打ち合わせの交通費なら相手先。会計ソフトの摘要欄に一言書いておくだけで違います。

電子データでやり取りした請求書や領収書には保存義務があるため、その点も含めてクラウド会計ソフトを使うのが現実的です。明細の自動取り込みとセットにしておくと、摘要欄に一言残す作業も続きます。

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3. 判断に迷う項目を洗い出しておく

スーツ、書籍、カフェ代など、業務との関連が説明しづらいものは毎年同じところで手が止まります。経費にできるもののチェックリストで、判断の根拠ごと整理しておくと迷いが減ります。

まとめ

  • 経費率の目安を定めた公的な基準はない。所得税法37条が定めているのは「業務について生じた費用」かどうかで、率という概念は条文に出てこない
  • 「3割が目安」といった数字の出どころは、国税庁の公表資料には見つけられなかった
  • 受託開発のエンジニアは仕入れがないため、構造的に経費率が低くなる。他業種の目安を持ち込むと必ず低く見える
  • 外注・機材更新・売上減の年は率が動く。売上が減っただけでも率は上がる
  • 国税庁は調査対象の選定基準を公表していない。公表されているのは「高額・悪質な不正計算が見込まれる事案」という調査の定義
  • 率を調整するのではなく、1件ずつ説明できる状態にしておくことが本質

この記事で参照した一次情報

本記事は2026年8月時点で上記の一次情報を確認して書いています。経費率の目安について国税庁の公表資料を探した範囲では該当する基準を見つけられませんでしたが、すべての公表物を網羅したものではありません。税制は改正されることがあるため、最新の情報および個別の判断は税理士または所轄の税務署にご確認ください。

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