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「これって経費にしていいの?」——フリーランスエンジニアになって最初の確定申告で、誰もが一度は止まるところです。会社員時代は経理が全部やってくれていたぶん、自分で判断するとなると迷います。
ここでは、フリーランスエンジニアが実際にぶつかる論点を、国税庁のタックスアンサーと法令解釈通達、財務省の税制改正大綱で裏を取りながら整理しました。特に「30万円の壁」と「家事按分の50%ルール」は、他の解説記事とズレている部分があったので、出典を並べて書いています。
※本記事は一般的な情報提供を目的としたものです。個別の税務判断は必ず税理士または所轄の税務署にご確認ください。
経費かどうかの判断は「事業に必要か」で決まる
経費として認められるかどうかの基本は「事業を行う上で必要な支出かどうか」です。売上を得るために直接・間接に必要な支出であれば経費になり得ますが、完全にプライベートな支出は経費になりません。
問題は、エンジニアの支出がその中間にあるものだらけだという点です。自宅の回線、開発用に買ったマシン、月額のSaaS、技術書。これらをどこまで、どういう根拠で経費にするか。以下、金額と種類で分けて見ていきます。
機材の金額で扱いが変わる(10万・20万・40万の壁)
エンジニアが最初にぶつかるのがここです。買った金額によって、その年に全額経費にできるかどうかが変わります。
| 取得価額 | 扱い | その年に全額経費にできるか |
|---|---|---|
| 10万円未満 | 消耗品費などで全額必要経費 | できる |
| 10万円以上20万円未満 | 一括償却資産(3年で1/3ずつ)を選べる | 3年に分割 |
| 10万円以上40万円未満 ※青色申告者 |
少額減価償却資産の特例(年間300万円まで) | できる |
| それ以上 | 法定耐用年数で減価償却 | 耐用年数で分割 |
使用可能期間が1年未満のもの、または取得価額が10万円未満のものは、その全額をその年の必要経費にします(国税庁 No.2100 減価償却のあらまし)。
「40万円未満」は2026年4月からの新しい基準
ここは情報が入れ替わったばかりの部分なので、調べた経緯をそのまま書きます。
国税庁のタックスアンサー No.2100 には、2026年8月時点でこう書かれています。
一定の要件を満たす青色申告者が、平成18年4月1日から令和8年3月31日までに取得した取得価額10万円以上30万円未満の減価償却資産(中略)については、一定の要件の下でその取得価額の合計額のうち300万円に達するまでの取得価額の合計額をその業務の用に供した年分の必要経費に算入できるという特例があります。
令和8年3月31日は2026年3月31日。つまりこの記載どおりなら、すでに期限が切れていることになります。
一方、財務省が公表している令和8年度税制改正の大綱には、こう書かれています。
中小企業者等の少額減価償却資産の取得価額の損金算入の特例について、次の措置を講じた上、その適用期限を3年延長する(所得税についても同様とする。)。
・対象となる減価償却資産の取得価額を40万円未満(現行:30万円未満)に引き上げる。(再掲)
・対象となる法人から常時使用する従業員の数が400人を超える法人を除外する。
「所得税についても同様とする」とあるので、法人だけでなく個人事業主にも適用されます。金額は30万円未満から40万円未満へ引き上げ、期限は3年延長。
つまり、国税庁のタックスアンサーの記載が改正に追いついていない状態です。取得した時期がいつかで扱いが変わるので、2026年4月以降に高額な機材を買った場合は、所轄の税務署か税理士に確認しておくのが確実です。
MacBook Proが38万円だったらどうなるか
この改正がエンジニアに直撃するのは、まさにこの価格帯だからです。
- 旧基準(30万円未満):38万円のマシンは対象外。4年(法定耐用年数)で減価償却
- 新基準(40万円未満):38万円のマシンも一括で必要経費に算入できる
開発機を新調するエンジニアの多くが、ちょうどこの30万〜40万円のレンジに入ります。
見落としやすい:税込か税抜かで判定が変わる
金額の判定について、国税庁はこう補足しています。
取得価額の判定に際し、消費税の額を含めるかどうかは納税者の経理方式によります。すなわち、税込経理であれば消費税を含んだ金額で、税抜経理であれば消費税を含まない金額で判定します。なお、免税事業者の経理方式は税込経理になります。
インボイス登録をしていない免税事業者は税込経理になるため、税込価格で判定されます。本体価格36万円のマシンは税込39.6万円。40万円未満にぎりぎり収まりますが、37万円なら税込40.7万円で対象外になります。店頭の税抜価格で判断すると間違えます。
エンジニアが使う経費の勘定科目
勘定科目に法律上の決まりはありません。重要なのは一度決めたら毎年同じ科目を使い続けることです。以下は一般的な例です。
| 項目 | 勘定科目の例 | ポイント |
|---|---|---|
| 開発マシン・モニタ・キーボード | 消耗品費/工具器具備品 | 10万円以上は上記の金額判定へ |
| GitHub Copilot・ChatGPT・Claude などのAI課金 | 通信費/支払手数料/新聞図書費 | 業務利用分が対象。プライベート兼用なら按分 |
| AWS・Vercel・Supabase などのクラウド利用料 | 通信費/支払手数料 | 案件用と個人開発用が混在するなら区分する |
| JetBrains・Figma・Adobe などのライセンス | 消耗品費/支払手数料 | 年払いは後述の短期前払費用に注意 |
| レンタルサーバー・ドメイン | 通信費/支払手数料 | 複数年契約は一括計上できないことがある |
| 技術書籍・オンライン講座 | 新聞図書費/研修費 | 業務に関連する内容であることが前提 |
| 勉強会・カンファレンス参加費 | 研修費/会議費 | 業務との関連を説明できるようにしておく |
| 実機テスト用のスマホ・タブレット | 消耗品費/工具器具備品 | 私用と兼ねる場合は按分の対象 |
| コワーキングスペース利用料 | 地代家賃/支払手数料 | 領収書に利用日が残る形が望ましい |
| 自宅の家賃・光熱費・回線 | 地代家賃/水道光熱費/通信費 | 家事按分で業務利用分のみ(次章) |
| 打ち合わせの交通費・飲食費 | 旅費交通費/会議費 | 誰と何のために会ったかを記録しておく |
家事按分:「白色は50%を超えないとダメ」は正確ではない
家賃や回線のように、プライベートと業務の両方で使っている支出は「家事関連費」と呼ばれ、業務利用分だけを経費にします。ここで多くの解説記事が「白色申告は50%を超えないと按分できない」と書いていますが、通達の原文を読むと違います。
まず条文の構造
所得税法施行令第96条は、家事関連費のうち必要経費にできるものを2つの号に分けています。1号が申告方式を問わない一般的な要件、2号が青色申告者向けの要件です。
国税庁のタックスアンサーは、必要経費になる範囲をこう説明しています。
この家事関連費のうち必要経費になるのは、取引の記録などに基づいて、業務遂行上直接必要であったことが明らかに区分できる場合のその区分できる金額に限られます。
50%の根拠と、そのただし書き
「50%」という数字が出てくるのは、法律ではなく所得税基本通達45-2です。原文はこうなっています。
令第96条第1号に規定する「主たる部分が不動産所得、事業所得、山林所得又は雑所得を生ずべき業務の遂行上必要」であるかどうかは、その支出する金額のうち当該業務の遂行上必要な部分が50%を超えるかどうかにより判定するものとする。ただし、当該必要な部分の金額が50%以下であっても、その必要である部分を明らかに区分することができる場合には、当該必要である部分に相当する金額を必要経費に算入して差し支えない。
ただし書きが付いています。50%以下であっても、業務に必要な部分を明らかに区分できるなら、その分は必要経費に算入して差し支えない、と書かれています。
つまり「白色申告だと事業利用が50%を超えないと按分できない」という説明は、通達の前半だけを読んだものです。実際には、区分の根拠を示せるかどうかが本質です。
あわせて通達45-1は、判定の方法をこう定めています。
令第96条第1号《家事関連費》に規定する「主たる部分」又は同条第2号に規定する「業務の遂行上直接必要であったことが明らかにされる部分」は、業務の内容、経費の内容、家族及び使用人の構成、店舗併用の家屋その他の資産の利用状況等を総合勘案して判定する。
エンジニアの按分根拠の作り方
結局のところ、割合そのものよりその割合をどう説明するかが問われます。よく使われる基準は次の2つです。
- 面積按分:自宅の中で作業スペースが占める面積の割合で按分する(家賃・地代など)
- 時間按分:業務に使っている時間の割合で按分する(電気代・回線など)
エンジニアの場合、記録が残しやすいという利点があります。
- 作業時間:稼働時間の記録、コミットログ、勤怠ツールの履歴
- 作業スペース:間取り図に作業スペースを書き込み、面積を実測して保存
- 回線:Web会議やデプロイなど業務利用の実態を、稼働記録と併せて説明できる形にしておく
按分の根拠は、申告書に添付するものではありません。後から聞かれたときに説明できる状態で手元に残しておくものです。
青色申告特別控除65万円の要件
控除額は3段階あります。国税庁の説明はこうです。
青色申告者に対しては種々の特典がありますが、その1つに所得金額から55万円(一定の要件を満たす場合は65万円)または10万円を控除するという青色申告特別控除があります。
55万円の要件
- 不動産所得または事業所得を生ずべき事業を営んでいること
- これらの所得に係る取引を正規の簿記の原則(一般的には複式簿記)により記帳していること
- 記帳に基づいて作成した貸借対照表、損益計算書および所得の金額の計算に関する明細書を確定申告書に添付し、控除の適用を受ける金額を記載して、その年の確定申告期限(翌年3月15日)までに提出すること
65万円にするための追加要件
55万円の要件を満たしたうえで、次のいずれかに該当する必要があります。
- その年分の事業に係る仕訳帳および総勘定元帳について優良な電子帳簿の要件を満たして電子データによる備付けおよび保存を行い、届出書を提出していること
- 確定申告書、貸借対照表、損益計算書等の提出を、申告期限までに e-Tax で行うこと
e-Taxを使うのが現実的な選択肢です。なお、これらの書類をイメージデータ(PDFなどの画像)で送信することはできません。
見落としやすい落とし穴:現金主義を選んでいると55万円控除は使えない
国税庁の注記にこう書かれています。
現金主義による所得計算の特例を選択している方は、55万円の青色申告特別控除を受けることはできません。
現金主義の特例とは、前々年分の事業所得・不動産所得の合計が300万円以下の青色申告者が、収入と経費の計上時期を現金の出入りの基準で計算できるという制度です(届出が必要)。記帳はラクになりますが、55万円・65万円の控除とは両立しません。
もうひとつ、控除額には上限があります。事業所得の金額が55万円より少ない場合、控除額はその金額が限度になります。赤字の年に65万円控除で赤字を膨らませることはできません。
令和9年分からは要件が変わる
ここまでは現行制度(令和8年分まで)の話です。令和8年度税制改正で、令和9年分からは控除額と要件が変わります。
55万円の青色申告特別控除について、(略)電子情報処理組織(e-Tax)を使用して行うことを適用要件に加えた上、控除額を65万円に引き上げる。(略)65万円の青色申告特別控除について、(略)電磁的記録の保存等を行っていること(次に掲げる場合のいずれかに該当する場合に限る。)との要件を満たすものとした上、控除額を75万円に引き上げる。(略)(注)上記の改正は、令和9年分以後の所得税について適用する。
変わる点は2つあります。1つは、上で「いずれか」と書いたe-Taxと電子帳簿保存が、いずれかではなくなること。e-Taxが必須要件になり、電子帳簿保存はその上に積む75万円の要件へ移ります。紙で提出していると、複式簿記で記帳していても65万円に届きません。
もう1つは10万円控除の側です。同じ大綱で、前々年の事業所得の収入金額が1,000万円を超えていて簡易な簿記で記帳している場合、10万円控除の対象からも除外されると定められました。単価の高い案件を続けているエンジニアには届く金額です。
この改正を含む所得税法等の一部を改正する法律は令和8年3月31日に成立・公布済みです。控除の詳しい中身と、会計ソフト各社の対応状況はクラウド会計ソフト比較(エンジニア目線)にまとめています。
複式簿記を手作業でやるかどうか
65万円控除の要件は、突き詰めると「複式簿記+貸借対照表+e-Tax」の3点です。このうち複式簿記と貸借対照表を手作業で用意するのは、簿記の知識がないと現実的ではありません。
クラウド会計ソフトを使えば、銀行・カードの明細を取り込んで仕訳を起こし、貸借対照表まで自動で作られ、そのままe-Tax送信までつながります。会計ソフトの利用料自体も経費なので、65万円の控除額と比べると、導入しない理由の方が少なくなります。
フリーランスエンジニアがよく比較検討するのは次の3つです。どれも無料でお試しできるので、自分が使っている銀行・カードが実際に連携できるかを確かめてから決める形になります。
銀行・カード連携の幅広さ ・ 無料お試しあり
簿記の知識なしでも進めやすい ・ 無料お試しあり
初年度無料 ・ 優良な電子帳簿に対応
3つの違いはクラウド会計ソフト比較(エンジニア目線)で整理しています。
関連して押さえておくこと
- 経費率に目安はあるのか:「3割が目安」といった数字を定めた公的な基準は見つかりませんでした。所得税法37条が問うのは、率ではなく1件ずつが業務について生じた費用かどうかです(詳細)
- サーバー・ドメインの複数年契約:支払日から1年を超える役務提供は短期前払費用の特例の対象外になりやすく、払った年に全額を経費にできないことがあります(詳細)
- 2年目の予定納税:前年の申告納税額から計算した予定納税基準額が15万円以上だと、その年の所得税を前払いすることになります(詳細)
- 貸付けの用に供する資産:令和4年4月1日以降に取得し貸付けの用に供した減価償却資産(主要な業務として行う貸付けを除く)は、上記の金額特例の対象外です
まとめ
- 経費かどうかは「事業に必要な支出か」で判断する
- 機材は金額で扱いが分かれる。2026年4月以降の取得分は40万円未満まで一括計上できる方向に改正されており、国税庁のタックスアンサーの記載(30万円未満)はまだ追いついていない
- 金額の判定は経理方式によって税込か税抜かが変わる。免税事業者は税込で判定
- 家事按分は「白色は50%超が必須」ではない。通達45-2のただし書きにより、50%以下でも区分できれば算入して差し支えない。割合そのものより根拠の説明が問われる
- 65万円控除は複式簿記+貸借対照表+e-Tax。現金主義の特例を選んでいると55万円・65万円控除は使えない
- 令和9年分からは控除額と要件が変わる。e-Taxが必須要件になり、優良な電子帳簿を満たすと75万円。簡易な簿記で前々年の収入金額が1,000万円を超えると、10万円控除からも外れる
この記事で参照した一次情報
- 国税庁 タックスアンサー No.2100 減価償却のあらまし(金額基準・税込税抜の判定)
- 国税庁 タックスアンサー No.2210 やさしい必要経費の知識(家事関連費)
- 国税庁 法令解釈通達 所得税基本通達45-1・45-2(主たる部分の判定・50%のただし書き)
- 国税庁 タックスアンサー No.2072 青色申告特別控除(55万円・65万円の要件、現金主義の制限)
- 財務省 令和8年度税制改正の大綱(1/9)(青色申告特別控除の65万円・75万円への引上げ、e-Taxの必須化、令和9年分以後の適用、簡易な簿記かつ収入金額1,000万円超の場合の10万円控除からの除外)
- 財務省 令和8年度税制改正の大綱(3/9)(少額減価償却資産の特例の40万円未満への引上げ・3年延長)
本記事の内容は執筆時点(2026年9月)に上記の一次情報を確認して書いています。税制は改正されるため、実際の申告にあたっては国税庁の最新情報および所轄の税務署・税理士にご確認ください。

