フリーランスエンジニアの単価相場はどこから来た数字か|フリーランス法で変わった点

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フリーランスとして単価の提示を受けたとき、まず気になるのは「この額は妥当なのか」です。検索すると「相場は月60万〜80万」といった数字が並びますが、その数字がどこから来たのかまで書かれていることは、ほとんどありません。

調べていくと、単価については相場の数字より確実なものがありました。法律です。2023年に成立した通称フリーランス法が、報酬について具体的な義務を課しています。

※本記事は一般的な情報提供を目的としたものです。個別の契約や取引の判断は弁護士等の専門家にご確認ください。

「相場」の数字の出どころ

単価相場として流通している数字の多くは、フリーランスエージェント各社が自社の登録者や成約案件から算出したものです。各社が公表しているデータなので、数字そのものは実在します。

ただし注意点があります。母集団がそのエージェントの利用者に限られます。登録者の経験年数、扱う案件の領域、企業側の予算帯が各社で違うため、会社が変われば数字も変わります。業界全体の平均ではありません。

今回、フリーランスエンジニアの単価を示す公的な統計を探しましたが、確認できた範囲では見つけられませんでした。厚生労働省の賃金構造基本統計調査は存在しますが、これは雇用されている労働者を対象とした調査で、業務委託で働くフリーランスの報酬額とは前提が異なります。

フリーランス法が報酬について定めていること

相場の数字と違い、こちらは条文で確認できます。正式名称は「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」(令和5年法律第25号)です。令和5年5月12日に公布されました。

この法律は、公布の日から起算して一年六月を超えない範囲内において政令で定める日から施行する。

出典:特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律 附則第1項

施行日は政令で令和6年(2024年)11月1日と定められ、2026年8月現在、すでに施行されています。

1. 報酬の額を明示する義務

まず、発注する側に明示の義務があります。

業務委託事業者は、特定受託事業者に対し業務委託をした場合は、直ちに、公正取引委員会規則で定めるところにより、特定受託事業者の給付の内容、報酬の額、支払期日その他の事項を、書面又は電磁的方法(中略)により特定受託事業者に対し明示しなければならない。

出典:同法 第3条第1項

「直ちに」と書かれています。作業を始めてから条件を詰める、という進め方は法律の想定と違います。またメールやチャットでの明示も認められていますが、書面の交付を求められたときは交付しなければならないと第3条第2項に定めがあります。

2. 支払期日は受領日から60日以内

ここから先の第4条(支払期日)と第5条(禁止行為)は、第3条と違って、義務を負う側が「特定業務委託事業者」に限られています。条文の主語にそのまま書かれているので、主語から引用します。

特定業務委託事業者が特定受託事業者に対し業務委託をした場合における報酬の支払期日は、(中略)特定受託事業者の給付を受領した日(中略)から起算して六十日の期間内において、かつ、できる限り短い期間内において、定められなければならない。

出典:同法 第4条第1項

「特定業務委託事業者」が何を指すかは、第2条第6項に定義があります。

この法律において「特定業務委託事業者」とは、業務委託事業者であって、次の各号のいずれかに該当するものをいう。
一 個人であって、従業員を使用するもの
二 法人であって、二以上の役員があり、又は従業員を使用するもの

出典:同法 第2条第6項

つまり、発注元が従業員を使っている個人か、役員が2人以上いるか従業員を使っている法人であれば、この60日ルールと、第5条の禁止行為(対象となる業務委託の期間には次の節の条件があります)が適用されます。従業員のいない個人事業主から直接仕事を受ける場合、第3条の明示義務はかかりますが、第4条と第5条は適用されません。

さらに、期日を定めなかった場合や60日を超えて定めた場合の扱いも条文にあります。第4条第2項によれば、定めなかったときは受領日が、60日を超えて定めたときは受領日から60日を経過する日が、それぞれ支払期日とみなされます

3. 再委託のときは30日以内

エンジニアの案件は多重下請けになることが珍しくありません。この場合は別のルールが適用されます。

(中略)特定業務委託事業者が、当該業務委託に係る業務(中略)の全部又は一部について特定受託事業者に再委託をした場合(中略)には、当該再委託に係る報酬の支払期日は、元委託支払期日から起算して三十日の期間内において、かつ、できる限り短い期間内において、定められなければならない。

出典:同法 第4条第3項

元請けに対して定められた支払期日(元委託支払期日)から30日以内です。起算点は元請けが実際に入金を受けた日ではなく、元請けとその発注元(元委託者)との間で定められた支払期日です。ただしこれは、再委託である旨・元委託者の名称・元委託支払期日などを明示した場合に限られます。明示がなければ、原則どおり受領日から60日以内が適用されます。

4. 著しく低い報酬を定めることの禁止

相場の話に最も近いのがこの規定です。

特定受託事業者の給付の内容と同種又は類似の内容の給付に対し通常支払われる対価に比し著しく低い報酬の額を不当に定めること。

出典:同法 第5条第1項第4号

ここで「通常支払われる対価」という比較の基準が条文に登場します。ただし具体的な金額は書かれていません。個別の取引ごとに判断されるものなので、「相場より安ければ即違法」という単純な話ではありません。

なお第5条には、報酬の減額(第1項第2号)や、受領後にやり直させること(第2項第2号)の禁止も含まれています。この条で義務を負うのも、第4条と同じく特定業務委託事業者です。また、この条は政令で定める期間以上にわたって行う業務委託が対象である点にも注意が必要です。その期間は施行令で1か月と定められています。

特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(以下「法」という。)第五条第一項の政令で定める期間は、一月とする。

出典:特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律施行令 第1条

単発で1か月に満たない案件は第5条の対象外ですが、契約の更新によって通算で1か月以上続くことになる案件は含まれます(第5条第1項)。

エンジニアの現場で効いてくる場面

  • 口頭やチャットで条件が決まっていく案件:報酬額と支払期日の明示は義務です。曖昧なまま着手する必要はありません
  • 常駐で多重下請けに入る案件:再委託なら30日以内のルールが適用される可能性があります。何次請けなのかは確認する価値があります
  • 検収が長引く案件:支払期日は検査をするかどうかを問わず受領日から起算する、と第4条第1項に明記されています
  • 単価を下げる交渉をされた案件:責めに帰すべき事由がないのに報酬額を減ずることは禁止されています

相場を調べる前にやること

相場の数字は、母集団が分からない以上、目安以上のものにはなりません。それよりも、目の前の契約で条件が明示されているかを確認するほうが確実です。

  1. 報酬額・支払期日・業務内容が書面か電磁的方法で示されているかを確認する
  2. 支払期日が受領日から60日以内になっているかを見る
  3. 再委託案件なら、その旨と元委託支払期日が明示されているかを確認する
  4. 提示額に納得できないときは、比較対象を自分で持っておく(複数のエージェントに登録して提示額を並べる、など)

比較対象をどう持つか

4つ目が意外と難しいところです。1社としか話していないと、提示された額が高いのか安いのか判断できません。公的な統計がない以上、複数の提示額を並べるのが現実的な比較方法になります。

エージェントによって扱う案件の領域も、企業側の予算帯も違います。同じスキルでも提示額が変わるのは、そのためです。Midworksは正社員に近い保障(報酬保障サービス。契約単価の60%で、適用には審査があります)を用意している点が他社と違うので、保障を重視するなら比較先の1つになります。

フリーランスエンジニアに安心保証と豊富な案件紹介を【midworks】

報酬保障サービスあり(契約単価の60%・審査あり)

案件が途切れたときの資金繰りについては生活防衛資金の記事に、報酬から引かれる税や保険料の考え方は収入変動への備え方にまとめています。

まとめ

  • 単価相場として流通する数字は、エージェント各社が自社の登録者・案件から出したもの。母集団が各社で違うため、業界平均ではない
  • フリーランスエンジニアの単価を示す公的統計は、今回確認できた範囲では見つけられなかった
  • 一方、フリーランス法は報酬について具体的に定めている。報酬額と支払期日の明示義務(第3条)、受領日から60日以内の支払期日(第4条第1項)、再委託なら元委託支払期日から30日以内(第4条第3項)。ただし第4条・第5条が適用されるのは、発注元が従業員を使う個人か、役員2人以上または従業員のいる法人(特定業務委託事業者)の場合
  • 「通常支払われる対価に比し著しく低い報酬」を不当に定めることは禁止(第5条第1項第4号)。ただし金額の基準は条文になく、個別に判断される
  • 相場を調べるより、目の前の契約で条件が明示されているかを確認するほうが確実

この記事で参照した一次情報

本記事は2026年9月時点で上記の一次情報を確認して書いています。フリーランスエンジニアの単価に関する公的統計を探しましたが、確認できた範囲では見つけられませんでした。すべての公表物を網羅したものではありません。法令は改正されることがあるため、最新の情報および個別の判断は専門家にご確認ください。

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