フリーランスエンジニアの請求書と源泉徴収|開発の報酬は204条に列挙されていない

白い木目の机に置かれた電卓と眼鏡、ボールペン、罫線入りの用紙 お金・決済
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請求書のテンプレートを開くと「源泉徴収税額」という欄があります。ここで手が止まる人は多いはずです。調べると「フリーランスの報酬からは10.21%が源泉徴収される」と書かれた記事が並びます。

ところが条文を読むと、話が変わります。源泉徴収の対象になる報酬は、所得税法に品目で列挙されていて、その中にシステム開発やプログラミングは入っていません。

※本記事は一般的な情報提供を目的としたものです。個別の税務判断は税理士または所轄の税務署にご確認ください。

源泉徴収の対象は「列挙」で決まっている

まず前提として、源泉徴収は支払う側の義務です。所得税法第204条第1項に、対象となる報酬が並んでいます。

居住者に対し国内において次に掲げる報酬若しくは料金、契約金又は賞金の支払をする者は、その支払の際、その報酬若しくは料金、契約金又は賞金について所得税を徴収し、その徴収の日の属する月の翌月十日までに、これを国に納付しなければならない。

一 原稿、さし絵、作曲、レコード吹込み又はデザインの報酬、放送謝金、著作権(著作隣接権を含む。)又は工業所有権の使用料及び講演料並びにこれらに類するもので政令で定める報酬又は料金

二 弁護士(中略)、司法書士、土地家屋調査士、公認会計士、税理士、社会保険労務士、弁理士、海事代理士、測量士、建築士、不動産鑑定士、技術士その他これらに類する者で政令で定めるものの業務に関する報酬又は料金

出典:所得税法(昭和四十年法律第三十三号)第204条第1項

第3号以降は、診療報酬、プロ野球選手やモデル・外交員、芸能、ホステス等、契約金、広告宣伝の賞金と続きます。8つの号のどこにも、システム開発・プログラミング・サーバー構築といった役務は出てきません。

国税庁のタックスアンサー No.2792も、条文と同じ8区分を挙げています。原稿料や講演料、士業への報酬、診療報酬、プロ野球選手やモデル・外交員への報酬、芸能、ホステス等、契約金、広告宣伝の賞金です。こちらにも開発の対価は出てきません。

「政令で定めるもの」にも入っていない

第1号の末尾に「これらに類するもので政令で定める報酬又は料金」とあります。ここに開発が滑り込んでいるのではないか、と考えるのが自然なので、政令も確認しました。

法第二百四条第一項第一号(源泉徴収義務)に規定する政令で定める報酬又は料金は、テープ若しくはワイヤーの吹込み、脚本、脚色、翻訳、通訳、校正、書籍の装てい、速記、版下(中略)若しくは雑誌、広告その他の印刷物に掲載するための写真の報酬若しくは料金、技術に関する権利、特別の技術による生産方式若しくはこれらに準ずるものの使用料、技芸、スポーツその他これらに類するものの教授若しくは指導若しくは知識の教授の報酬若しくは料金又は(中略)投資助言業務に係る報酬若しくは料金とする。

出典:所得税法施行令(昭和四十年政令第九十六号)第320条第1項

並んでいるのは出版・翻訳・実演に関わるものが中心です。「技術に関する権利」は出てきますが、これは使用料であって、開発作業そのものの対価ではありません。自分が書いたコードのライセンス料を受け取るならこちらに当たる可能性がありますが、受託して開発した対価とは性質が違います。

デザインは対象、開発は対象外

ここがエンジニアにとって分かりにくいところです。第1号に「デザインの報酬」は明記されています。つまり、

  • Webサイトのデザインを請け負った → デザインの報酬として対象になり得る
  • Webアプリの実装を請け負った → 列挙にないため対象外と考えられる

という線引きになります。1つの案件でデザインと実装の両方を受けている場合、請求書で内訳が分かれているかどうかが実務上の分かれ目になります。判断に迷う契約は、所轄の税務署か税理士に確認するのが確実です。

もう一つの分かれ目:誰が支払うか

対象の品目に当たる場合でも、源泉徴収が不要になる例外があります。

前項の規定は、次に掲げるものについては、適用しない。(中略)二 前項第一号から第五号まで並びに第七号及び第八号に掲げる報酬若しくは料金、契約金又は賞金のうち、第百八十三条第一項(給与所得に係る源泉徴収義務)の規定により給与等につき所得税を徴収して納付すべき個人以外の個人から支払われるもの

出典:所得税法 第204条第2項第2号(中略部分は第1号で、給与等・退職手当等に該当するものを除く定め)

読みにくい条文ですが、要は「給与を払っていない個人」が支払う場合は源泉徴収しなくてよいということです。従業員を雇っていない個人事業主は、給与について源泉徴収して納付する立場にありません。

エンジニアの現場で効いてくるのは、案件の一部を他のフリーランスに外注したときです。自分が一人で仕事をしていて、外注先にデザインを頼んだ場合、この規定により源泉徴収が不要になり得ます。逆に、支払う側が法人であれば原則どおり対象です。

「10.21%」という数字はどこから来たのか

税率は第205条にあります。

その金額に百分の十(同一人に対し一回に支払われる金額が百万円を超える場合には、その超える部分の金額については、百分の二十)の税率を乗じて計算した金額

出典:所得税法 第205条第1号

所得税法に書かれているのは10%です。よく見る10.21%は、これに復興特別所得税(所得税額の2.1%)を上乗せした率で、10% × 1.021 = 10.21% という計算になります。100万円を超える部分は20% × 1.021 = 20.42%です。

消費税を分けて書くかどうかで金額が変わる

請求書の書き方で、実際に引かれる額が変わる点があります。

報酬・料金等の額の中に消費税および地方消費税の額(中略)が含まれている場合は、原則として、消費税等の額を含めた金額が源泉徴収の対象となります。ただし、請求書等において、報酬・料金等の額と消費税等の額が明確に区分されている場合には、その報酬・料金等の額のみを源泉徴収の対象とする金額として差し支えありません(注)。

(注)消費税の仕入税額控除制度における適格請求書等保存方式(インボイス制度)開始後も、上記の取扱いは変更ありません。

出典:国税庁 No.2792 源泉徴収が必要な報酬・料金等とは

報酬50万円・消費税5万円の請求書で考えます。

  • 税込55万円とだけ書いた場合:550,000 × 10.21% = 56,155円が源泉徴収の対象
  • 報酬50万円・消費税5万円と分けて書いた場合:500,000 × 10.21% = 51,050円

差は5,105円です。源泉徴収された分は確定申告で精算されるので最終的な税額は変わりませんが、その年の手元資金は変わります。請求書で内訳を分けて書くのは、それだけで意味があります。

実務としてどうするか

1. 請求書に源泉徴収欄を入れるか

開発の報酬だけであれば、条文上は対象外と考えられるため、源泉徴収欄なしで請求するのが自然です。ただし源泉徴収するかどうかを判断するのは支払う側です。取引先が一律に源泉徴収する運用をしている場合もあります。契約時に確認しておくと、入金額のずれで慌てずに済みます。

2. 引かれていた場合は放置しない

入金額が請求額と違っていたら、まず支払調書か明細で源泉徴収税額を確認します。引かれた分は前払いした所得税なので、確定申告で精算され、納めすぎていれば還付されます。申告しなければ引かれたままです。

取引先ごとに引かれたり引かれなかったりするため、年間の源泉徴収税額を自分で積み上げられる状態にしておく必要があります。請求書と入金の差額を都度記録するのは手作業では抜けやすいので、クラウド会計ソフトで入金の消し込みごと管理するのが現実的です。

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3. 外注するときは自分が支払う側になる

案件の一部を他の人に振ったときは、立場が逆になります。相手の仕事がデザインや原稿であれば対象になり得ますが、自分が従業員を雇っていない個人事業主なら、第204条第2項第2号により源泉徴収が不要になる場合があります。迷ったら支払う前に確認してください。徴収して納付する義務は支払う側にあり、後から遡って求められると面倒です。

報酬から引かれる税や保険料の全体像は収入変動への備え方に、単価そのものの考え方は単価相場はどこから来た数字かにまとめています。

まとめ

  • 源泉徴収の対象は所得税法第204条第1項に品目で列挙されている。8つの号にシステム開発・プログラミングは出てこない
  • 第1号の「政令で定めるもの」(施行令第320条第1項)にも開発は含まれない。「技術に関する権利」は使用料であって開発の対価ではない
  • デザインの報酬は第1号に明記されている。実装は列挙にない。請求書で内訳が分かれているかが実務上の分かれ目になる
  • 対象品目でも、給与を支払っていない個人から支払われるものは対象外(第204条第2項第2号)
  • 税率は所得税法上は10%(100万円超の部分は20%)。10.21%は復興特別所得税を加えた率
  • 請求書で報酬と消費税を明確に区分すれば、報酬額のみが源泉徴収の対象にできる。インボイス制度開始後も同じ
  • 引かれた分は前払いの所得税。確定申告で精算され、納めすぎていれば還付される

この記事で参照した一次情報

本記事は2026年9月時点で上記の一次情報を確認して書いています。源泉徴収の要否は契約内容や業務の実態によって判断が変わります。特にデザインと実装が混在する契約は個別の判断が必要になるため、最終的な取扱いは税理士または所轄の税務署にご確認ください。法令は改正されることがあります。

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