退職して独立した年の確定申告|年末調整がない年の3つの論点

白い木のテーブルに置かれた開いたノートとボールペン、めがね 確定申告・税金
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※本記事は一般的な情報提供を目的としたものです。個別の税務判断は税理士または所轄の税務署にご確認ください。

会社を辞めて独立した年の確定申告は、翌年以降とは形が違います。1年のうちに給与所得と事業所得の両方があり、しかも給与のほうは年末調整されていません。

この年に限って発生する論点が3つあります。順に条文で確認します。

先に結論

  • 年の途中で退職すると、通常は年末調整が行われません。年末調整は「その年最後に給与等の支払をする場合」の手続きで、退職後に他の勤め先へ扶養控除等申告書を出すと見込まれる人は対象から除かれるためです(所得税法190条)。給与から引かれた所得税は精算されていない状態です
  • 「20万円以下なら申告不要」の条件は年末調整ではなく、給与の全部が源泉徴収されていることです(所得税法121条)。退職した年でも条文上は使えますが、源泉徴収が多めに残っているので、申告したほうが還付を受けられます
  • 退職金は「退職所得の受給に関する申告書」を出していれば申告不要ですが、出していない場合は20.42%が源泉徴収され、確定申告で精算することになります
  • 事業が赤字なら、事業所得の損失は給与所得と損益通算できます(所得税法69条1項)。雑所得ではできません

年の途中の退職では年末調整がない

年末調整の条文には、実施される場面が書かれています。

給与所得者の扶養控除等申告書を提出した居住者で、(中略)その年中に支払うべきことが確定した給与等の金額が二千万円以下であるものに対し、その提出の際に経由した給与等の支払者がその年最後に給与等の支払をする場合(中略)において、(中略)所得税の額の合計額が(中略)税額に比し過不足があるときは、その超過額は、その年最後に給与等の支払をする際徴収すべき所得税に充当し、(後略)

出典:所得税法 第190条

「その年最後に給与等の支払をする場合」という条件があります。6月に退職すれば、その会社にとって6月が最後の支払いですが、条文の括弧書きで「その後その年十二月三十一日までの間に当該支払者以外の者に当該申告書を提出すると見込まれる場合」が除かれています。退職して独立する人は通常この除外に当たるため、年末調整は実施されません。国税庁も、年の中途で年末調整の対象になる退職者を死亡退職や12月の給与を受けた後の退職など5つの場合に限っています。

給与から毎月引かれていた所得税は、源泉徴収税額表にもとづく概算です。1年間その給与が続く前提で計算されているため、年の途中で給与が止まると多く引かれた状態で残ります。還付が生じやすいのはこのためです。

20万円以下の特例は「年末調整済み」が条件ではない

副業の文脈でよく出てくる「20万円以下なら申告不要」は、次の条件付きです。

一 一の給与等の支払者から給与等の支払を受け、かつ、当該給与等の全部について第百八十三条(給与所得に係る源泉徴収義務)又は第百九十条(年末調整)の規定による所得税の徴収をされた又はされるべき場合において、その年分の(中略)事業所得の金額(中略)が二十万円以下であるとき。

出典:所得税法 第121条第1項第1号

条件は「第百八十三条又は第百九十条」です。第183条は毎月の給与からの源泉徴収、第190条は年末調整なので、年末調整がなくても、給与の全部が源泉徴収されていれば条文上の条件は満たします。1社からの給与だけで、退職後の事業所得が20万円以下なら、この規定により申告書の提出は要しません。

ただし、それで得をするわけではありません。年の途中で止まった給与の源泉徴収は多めに残っているので、申告しなければ納めすぎた分が戻ってきません。申告書を出さなくてよい場合でも、還付を受けるための申告はできます(所得税法122条)。退職した年は「申告しなくてよいか」ではなく「申告すれば戻るか」で考えるのが実務的です。20万円の判定そのものは副業20万円と住民税の記事にまとめています。

退職金は申告書の有無で扱いが変わる

退職金には専用の申告書があります。

国内において退職手当等の支払を受ける居住者は、その支払を受ける時までに、次に掲げる事項を記載した申告書を、その退職手当等の支払者を経由して、(中略)所轄税務署長に提出しなければならない。

出典:所得税法 第203条第1項

これを出しているかどうかで、源泉徴収のされ方が変わります。

「退職所得の受給に関する申告書」の提出を受けていない場合
退職手当等の支給額に20.42パーセントの税率を乗じて計算した所得税および復興特別所得税の額(中略)を源泉徴収します。この場合には、退職手当等の受給者本人が確定申告をして(中略)精算をすることになります。

出典:国税庁 No.2732 退職手当等に対する源泉徴収

申告書の提出 源泉徴収 確定申告
出している 退職所得控除を反映した税額 原則不要
出していない 支給額の20.42% して精算する

提出していない場合、退職所得控除が反映されないまま源泉徴収されます。勤続年数が長いほど控除額は大きくなるので、放置すると納めすぎになります。手元の源泉徴収票で、退職金からいくら引かれているかを確認してください。

事業が赤字なら給与と通算できる

独立初年度は、機材や環境の整備で支出が先行しやすい年です。

総所得金額、退職所得金額又は山林所得金額を計算する場合において、不動産所得の金額、事業所得の金額、山林所得の金額又は譲渡所得の金額の計算上生じた損失の金額があるときは、政令で定める順序により、これを他の各種所得の金額から控除する。

出典:所得税法 第69条第1項

条文に並んでいるのは不動産所得・事業所得・山林所得・譲渡所得です。雑所得は入っていません。同じ収入でも、事業所得として申告できるかどうかで、退職前の給与と相殺できるかが変わります。

事業所得か雑所得かは、社会通念上事業といえる程度に行っているかで判定され、帳簿書類の保存がない場合は原則として雑所得とされます(所得税基本通達35-2)。判定基準は事業所得と雑所得を分けるのは帳簿という記事にまとめました。初年度から帳簿を整えておくことが、この通算の前提になります。

退職後に自分で払った保険料も控除できる

退職してから国民年金と国民健康保険に切り替えた場合、その保険料は社会保険料控除の対象です。会社員時代に給与から天引きされていた分と、退職後に自分で払った分の両方を合算します。

国民年金の控除証明書は日本年金機構から届きますが、国民健康保険は自治体によって証明書が出ないことがあります。納付書や口座の記録から自分で集計する必要があります。1年目に国保と任意継続のどちらを選ぶかという判断は国保 vs 任意継続の記事にまとめています。

この年に用意するもの

書類 どこから 何に使うか
給与の源泉徴収票 退職した会社 給与所得と源泉徴収税額
退職所得の源泉徴収票 退職した会社 退職金の源泉徴収税額
国民年金の控除証明書 日本年金機構 社会保険料控除
国民健康保険の納付記録 自分で集計 社会保険料控除
事業の帳簿と領収書 自分で作成 事業所得の計算

給与所得と事業所得が混ざる年は、申告書の記入箇所が翌年以降より増えます。給与の源泉徴収票の数字を転記する欄と、事業の収支を入れる欄の両方を埋めることになります。会計ソフトを使うと、事業側の集計から申告書の作成までがつながるので、転記の手間と間違いが減ります。

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翌年に来るものを見込んでおく

独立初年度の確定申告で所得が確定すると、その金額をもとに翌年の住民税・国民健康保険料・個人事業税が決まります。会社員時代は給与天引きだった住民税が、退職後は納付書で来ます。

実際にいくらになるかは単価50万円の手取りの記事で積み上げています。個人事業税がかかるかどうかは法定70業種の記事を参照してください。

まとめ

  • 年の途中で退職すると年末調整が行われない(所得税法190条)。給与から引かれた所得税は概算のままで、還付になることが多い
  • 20万円以下の申告不要の条件は「給与の全部が源泉徴収されていること」で、年末調整済みではない(所得税法121条)。退職した年でも条文上は使えるが、源泉徴収が多めに残っているので申告したほうが還付になる
  • 退職金は「退職所得の受給に関する申告書」を出していれば申告不要(所得税法121条2項)。出していない場合は支給額の20.42%が源泉徴収され、確定申告で精算する
  • 事業所得の損失は給与所得と損益通算できる(所得税法69条1項)。条文に雑所得は含まれていない
  • 退職後に自分で払った国民年金・国民健康保険も社会保険料控除の対象。国保は証明書が出ないことがあるので自分で集計する

この記事で参照した一次情報

  • 所得税法(昭和40年法律第33号)(第190条の年末調整が「その年最後に給与等の支払をする場合」の手続きであること、第121条第1項第1号の条件が第183条の源泉徴収又は第190条の年末調整であること、第122条の還付を受けるための申告、第203条第1項の退職所得の受給に関する申告書、第69条第1項の損益通算の対象に事業所得が含まれ雑所得が含まれないことを確認)
  • 国税庁 No.1900 給与所得者で確定申告が必要な人(給与を1か所から受けていて、その給与の全部が源泉徴収の対象となる場合に、給与所得・退職所得以外の所得金額の合計額が20万円を超える人が確定申告を要することを確認)
  • 国税庁 No.2665 年末調整の対象となる人(年の中途で退職した人のうち年末調整の対象となるのが5つの場合に限られることを確認)
  • 国税庁 No.2732 退職手当等に対する源泉徴収(申告書の提出がない場合に支給額の20.42%が源泉徴収され、本人の確定申告で精算することを確認)

本記事は2026年9月時点で上記の一次情報を確認して書いています。年末調整が行われる場面や退職金の課税関係は個別の事情によって変わります。損益通算には政令で定める順序があり、通算しきれない損失の繰越しには別の要件があります。法令は改正されることがあるため、最新の情報および個別の判断は税理士または所轄の税務署にご確認ください。

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