請求書の振込手数料はどちらの負担か|民法は払う側、フリーランス法では合意があっても差し引きは減額

予算の表とグラフを表示したノートパソコンと、その横に置かれたノートとペン インボイス・請求書
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※本記事は一般的な情報提供を目的としたものです。個別の税務判断は税理士または所轄の税務署にご確認ください。

月末に通帳を見ると、請求額より440円少ない金額が入っていたことがあります。振込手数料を引かれていたのですが、契約書には手数料のことは何も書いていませんでした。「請求書 振込手数料 負担」で検索すると、「原則は支払う側の負担」「ただし書面で合意していれば受注側負担にできる」という説明が並びます。

条文と公正取引委員会の文書を読むと、前半は民法のとおりでしたが、後半は現行の公正取引委員会の文書では成り立たない場合が多いことが分かりました。この記事では、民法485条の原則と、フリーランス法・取適法(2026年1月に下請法から名前が変わった法律)で差し引きが「報酬の減額」になる条件、差し引かれたときの消費税の処理を、条文・公取委の「考え方」と運用基準・国税庁のQ&Aで確定させます。請求書の欄の作り方そのものは請求書テンプレートの記事で扱ったので、この記事は手数料の1点に絞ります。

先に結論

  • 民法485条の原則は、何も決めていなければ振込手数料は支払う側(発注側)の負担です。「振込手数料は貴社にてご負担ください」の一文は、この原則を確認しているだけで、新しく何かを求める文ではありません
  • 発注側が従業員を使う個人か、役員が2人以上いるか従業員を使う法人(特定業務委託事業者)で、1か月以上の業務委託なら、合意があっても振込手数料を報酬から差し引くことはフリーランス法5条1項2号の「報酬の減額」になります(公取委・厚労省「考え方」31ページ目、公取委Q&A Q78)。発注側が資本金1,000万円超か従業員300人超の法人からのプログラム作成の委託なら、期間を問わず取適法5条1項3号で同じ結論です。合意で受注側負担にできるのは、どちらの法律にも当たらず民法だけが当たる取引に限られます
  • 差し引かれた分の消費税の扱いは、国税庁のインボイスQ&A問29で3通りあり、売上値引きとして処理するなら1万円未満の返還は適格返還請求書が要りません。免税事業者なら消費税の処理は要りません

民法の原則:別段の意思表示がなければ、払う側の負担

振込手数料を誰が持つかを直接書いた条文はなく、根拠になるのは民法の「弁済の費用」の条文です。

(弁済の費用)
第四百八十五条 弁済の費用について別段の意思表示がないときは、その費用は、債務者の負担とする。ただし、債権者が住所の移転その他の行為によって弁済の費用を増加させたときは、その増加額は、債権者の負担とする。

出典:民法 第485条(2026年6月24日施行の現行版。2027年施行予定の2版も同文)

報酬を払う義務を負っているのは発注側なので、債務者は発注側です。契約書にも請求書にも何も書いていなければ、振込手数料は発注側が持ちます。請求書によくある「振込手数料は貴社にてご負担ください」は、民法が決めている原則をそのまま書いた一文で、書いていなくても結論は変わりません。

逆に言うと、民法だけを見るなら「別段の意思表示」で受注側負担に変えられます。契約書の支払条項に「振込手数料は受注者の負担とする」とあれば、民法上はそのとおりになります。ただし書きもあります。受注側が自分の都合で振込先を変えて手数料が増えた分は、受注側の負担です。この構造は、次に見る公取委の例外と同じです。

フリーランス法と取適法:合意があっても、差し引きは「減額」

ここから先が、検索上位の解説と一次情報がずれていた部分です。フリーランス法5条1項2号は、特定業務委託事業者(従業員を使う個人か、役員が2人以上いるか従業員を使う法人。2条6項)が1か月以上の業務委託をした場合に「特定受託事業者の責めに帰すべき事由がないのに、報酬の額を減ずること」を禁じています。公正取引委員会と厚生労働省の「考え方」は、この減額について次のように書いています。

また、仮に特定業務委託事業者と特定受託事業者との間で報酬の減額等についてあらかじめ合意があったとしても、特定受託事業者の責めに帰すべき事由なく報酬の額を減ずる場合には、本法違反となる。

出典:公正取引委員会・厚生労働省「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律の考え方」(PDF)31ページ目(令和8年10月1日改正版)

この段落に続く(イ)に「報酬の額を減ずること」の具体例が11個並び、③が「報酬を特定受託事業者の金融機関口座へ振り込む際の手数料を特定受託事業者に負担させ、報酬の額から差し引くこと」です。②の消費税相当分の不払い、⑤の1円以上の端数切り捨てと同じ列に置かれています。公取委のQ&A(Q78)も「特定受託事業者との合意の有無にかかわらず」差し引きは減額に該当すると書いています。減額が認められるのは、納品物が委託内容に合わない・納期に遅れたなど、受注側に責めがある3つの場合だけです(「考え方」32ページ目)。

唯一の例外もQ78にあります。契約時に振込先を口座Aと決めていたのに、受注側が自分の都合で口座Bに変えた場合、口座Aなら生じなかった増額分は受注側に負担させられます。民法485条ただし書きと同じ構造で、Q78の例外は受注側の都合による変更に限られているので、発注側の都合(支払日が休日に当たった、他行宛てになった)で増えた分は入らないことになります。

取適法でも同じです。2026年1月1日に下請法から名前が変わり、減額の禁止は5条1項3号になりました(旧法の4条1項3号から条番号が動いています)。公取委の運用基準(令和7年10月1日全部改正・令和8年10月1日改正)は、減額に含まれる行為として「中小受託事業者との合意の有無にかかわらず、代金を中小受託事業者の銀行口座へ振り込む際の手数料を中小受託事業者に負担させ、代金から差し引くこと」を挙げ、違反行為事例3-13は「プログラムの作成等を中小受託事業者に委託しているところ、代金の額から…振込手数料相当額を差し引いた」というソフトウェア開発そのものの事例です。公取委のリーフレットは、この禁止を「取適法施行(令和8年1月1日)に伴い、同日以降に発注した取適法適用対象取引では、新たに」禁止される行為として案内しています。2025年12月31日までに発注された分は旧法の扱いです(改正法附則2条2項)。

自分の取引にどの法律が当たるか

結論が「合意で変えられる」から「合意があっても減額」に変わるのは、発注側の規模と契約の期間で決まります。個人のフリーランスが受注する場合で整理すると次のとおりです。

発注側と期間 当たる法律 合意で受注側負担にできるか
従業員を使う事業者(役員2人以上の法人を含む)から、1か月以上の業務委託 フリーランス法5条1項2号 できない(差し引きは減額)
資本金1,000万円超または従業員300人超の法人から、プログラム作成の委託(期間を問わない) 取適法5条1項3号 できない(差し引きは減額)
上のどちらにも当たらない(従業員のいない発注側との1か月未満の単発など) 民法485条のみ できる(別段の意思表示)

出典:フリーランス法2条6項・5条1項・同施行令1条、取適法2条8項・5条1項・同法2条8項1号の政令、民法485条(いずれも2026年10月5日時点の現行版)

取適法でプログラム作成の委託が対象になるのは、発注側が資本金1,000万円超、または従業員300人超の法人で、受注側が個人か小さい法人の場合です(2条8項1号・2号・5号。1号の括弧書きが指す政令で、対象の情報成果物は「プログラム」、役務は運送・物品の倉庫における保管・情報処理と定められています)。プログラム以外の情報成果物(設計書・記事・デザインなど)や、情報処理以外の役務の委託なら、資本金1,000万円超または従業員100人超が基準です(同項3号・4号・6号)。フリーランス法のような1か月の下限はありません。フリーランス法の1か月は契約の更新で1か月以上続く場合を含むので、月単位で更新する常駐案件は最初の月から当たります。1か月未満の単発案件とフリーランス法の関係は副業は土日だけでできるかの記事に書きました。

民法だけが当たる取引は、個人や従業員のいない発注側との短い案件が中心です。その場合に限って「振込手数料は受注者負担」の合意が有効で、合意がなければ原則どおり発注側の負担です。契約書に何も書いていないのに差し引かれたなら、どの法律が当たる取引でも請求額との差額は未払いです。未払いになった報酬の遅延利息と催告の順番は未払い報酬の遅延利息の記事にまとめています。

差し引かれたときの消費税は3通り。値引きなら返還インボイスは不要

減額に当たるかどうかとは別に、実際に440円少なく入金されたときの帳簿と消費税の処理があります。国税庁のインボイスQ&A問29(令和8年5月改訂版)は、売手が負担する振込手数料相当額の対応を「取引当事者間の契約関係等により」3通りに分けています。

扱い 要る書類 帳簿
売上値引き(対価の返還等) 1万円未満なら適格返還請求書の交付は不要 売上から差し引く
買手の「代金決済上の役務提供」の対価 買手の適格請求書、または仕入明細書で買手の確認 支払手数料(課税仕入れ)
買手の立替払 金融機関の適格請求書+買手の立替金精算書(ATMなら帳簿のみ) 支払手数料(課税仕入れ)

出典:国税庁「消費税の仕入税額控除制度における適格請求書等保存方式に関するQ&A」問29・問30(令和8年5月改訂、39〜42ページ目)、消費税法38条1項・57条の4第3項、同施行令70条の9第3項2号

いちばん手間が少ないのは1行目です。請求額から差し引かれた分を売上の値引きとして扱うと、消費税法38条1項の「売掛金その他の債権の額の…一部の減額」に当たり、売上げに係る対価の返還等になります。本来は適格返還請求書を出す場面ですが、税込1万円未満の返還は施行令70条の9第3項2号で交付義務が免除されるので、440円の差し引きで書類は増えません。Q&A問30は、経理上は支払手数料の科目のままで消費税法上は対価の返還等として扱うこともできる、ただし帳簿にその旨を記載し、通常の支払手数料と判別できるようにする、としています。

2行目・3行目は、仕入税額控除を実額で計算している人のための型です。2割特例や簡易課税で申告しているなら、仕入れ側の税額は売上税額から機械的に計算するので、2行目・3行目の型にしても買手の書類は控除に使われません。1行目の値引きの型なら、売上げに係る対価の返還等として売上側の税額がその分だけ減ります(440円の差し引きなら数円から十数円です)。免税事業者なら、消費税の処理そのものが不要で、事業所得の帳簿で売上値引きか支払手数料のどちらかに記帳するだけです。

なお、問29の末尾(問30の直前)には「「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律」(取適法)の適用対象となる取引では、当事者間の合意の有無にかかわらず、振込手数料を売手に負担させ、代金から差し引くことは禁止されています」という注記があります。国税庁のQ&Aは処理の型を示しているだけで、差し引きそのものを認めているわけではありません。

実務としてどうするか

1. 契約書の支払条項を1行だけ確認し、なければ請求書に原則を書く

契約書か発注書の支払条項に「振込手数料」の語があるかを見ます。何も書いていなければ民法の原則で発注側負担なので、請求書の備考に「振込手数料は貴社にてご負担ください」と1行入れておけば、入金額と請求額を同じにする根拠が先方にも見える形になります。「受注者負担」と書かれている契約でも、上の表の1行目・2行目に当たる取引なら、その条項があっても差し引きは減額です。

2. 差し引かれていたら、どの型で記帳するかを先に決めて会計ソフトに登録する

入金額が請求額より少ないときは、差額を売上値引きとして記帳する型に揃えておくと、適格返還請求書も買手の適格請求書も要りません。会計ソフトの入金の取引登録では、請求額と入金額の差額を値引きか支払手数料のどちらかに分けて登録する形になり、消費税の税区分(対価の返還等か課税仕入れか)はその科目で決まります。インボイス登録済みで本則課税の人は、2行目・3行目の型にするなら先方の書類が要り、1行目の型なら先方の書類は要らず、帳簿も短くなります。

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3. 1か月以上の案件で差し引かれたら、合意の有無ではなく「減額」として先方に伝える

フリーランス法か取適法が当たる取引で差し引かれていたら、先方への確認は「契約に手数料の定めがあるか」ではなく「振込手数料の差し引きは5条の減額に当たる」という伝え方になります。合意があっても結論は変わらないからです。取適法が当たる取引は、2025年12月31日以前の発注なら旧下請法の扱いなので、発注日も一緒に見ます。

まとめ

  • 民法485条で、定めがなければ振込手数料は支払う側(発注側)の負担。請求書の一文は原則の確認で、民法だけが当たる取引なら合意で受注側負担にできる
  • 従業員を使う発注側(役員2人以上の法人を含む)との1か月以上の業務委託(フリーランス法)、資本金1,000万円超か従業員300人超の法人からのプログラム作成の委託(取適法)では、合意があっても差し引きは「減額」。例外は受注側が自分の都合で振込先を変えて増えた分だけ
  • 取適法は2026年1月1日以降の発注に適用され、減額の禁止は5条1項3号。違反行為事例3-13はプログラム作成の委託
  • 差し引かれた分の消費税は国税庁Q&A問29の3通り。売上値引きなら1万円未満で適格返還請求書は不要。2割特例・簡易課税なら2行目・3行目の書類を集めても仕入税額控除には使われず(値引きの型なら売上側の税額がその分だけ減る)、免税事業者なら消費税の処理は不要

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この記事で参照した一次情報

本記事は2026年10月時点で上記の一次情報を確認して書いています。フリーランス法・取適法の運用基準やQ&A、国税庁のQ&Aは改訂されることがあります。契約ごとの判断は、公正取引委員会の相談窓口、税理士または所轄の税務署にご確認ください。

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